第208回公開セミナー

2014/05/10 0:57 に 阿部陽 が投稿   [ 2014/05/10 0:58 に更新しました ]
下記により公開セミナーを開催します。

【日時】平成26年5月15日(木)13:30~15:00
【場所】岩手生物工学研究センター(北上市成田22-174-4)

【演題】イネ科植物いもち病菌の系統分化と非病原力エフェクター遺伝子の進化
【講師】中馬 いづみ(神戸大学大学院農学研究科 植物病理学研究室)

【内容】
 Pyricularia属菌はイネ科、ショウガ科、カヤツリグサ科植物にいもち病を起こす植物病原糸状菌である。この属にはPyricularia oryzae(完全世代名:Magnaporthe oryzae,イネ科栽培植物いもち病菌)およびP. grisea(完全世代名:M. grisea,メヒシバいもち病菌)と、これらとは分生子の形態で区別することのできるP. zingiberi(ミョウガ・ショウガいもち病菌)、P. zizaniaecola(マコモいもち病菌)、P. higginsii(カヤツリグサいもち病菌)等が存在する。いもち病菌が属するマグナポルテ科の系統解析を行うと、本菌集団は3細胞洋梨型で特徴付けることのできる単系統を形成し、Magnaporthe属の基準種であるM. salviniiとは明確に区別できる別系統に類別された。現在展開中の国際藻類・菌類・植物命名規約(メルボルン規約)の改訂に伴う属名に関する議論において、我々は、いもち病菌の属名としてはMagnaportheは生物学的に不適当で、Pyriculariaを用いるべきであることを主張している。
 Pyricularia属菌においてイネ科栽培植物に病原性を持つ種はP. oryzaeのみである。P. oryzaeは宿主の属に対応する寄生性を持つ菌群に分化しており、イネ菌のほかにアワ菌、シコクビエ菌、コムギ菌等が存在する。我々は、特にイネ菌の迅速なレース変異の機構を解明するために、イネ菌においてクローニングされている非病原力遺伝子の集団内における分布および座乗染色体を調査した。AVR-PitaはP. oryzaeおよびP. griseaが保有していたが、菌群ごとに座乗染色体が異なっており、イネ菌群においては第1、3、4、5、6、7染色体と過剰染色体にわたることを見出した。我々はこの現象をmultiple translocationと呼んだ。個体ごとに非病原力遺伝子の座乗染色体が異なる現象は、AVR-Pia, AVR-Piiにおいても見出され、AVR-Pikについては、イネ菌の多くの菌株において過剰染色体に座乗することが判明した。塩基配列の解析によって、この頻繁な染色体上の移動は、これらの遺伝子が転移因子リッチな領域に存在することが一因であると考えられた。また、どの遺伝子についてもP. oryzaeと近縁種の間の水平移動が関与した可能性が示唆された。これらの非病原力遺伝子の主な変異機構は遺伝子の全欠失であることを考慮すると、multiple translocationが起こった背景には、抵抗性遺伝子との相互作用によっておこる非病原力遺伝子の欠失と、抵抗性品種が作付けされなくなった際に起こる遺伝子の再獲得を繰り返し起こしたことが関わっているのではないかと考えられた。我々は既に、multiple translocationを起こさない非病原力遺伝子AVR-Piztを見出している。本遺伝子保有菌は、Piz-t保有品種に対して病原性をどの程度の頻度で獲得することができるのだろうか?将来的に、非病原力遺伝子の安定性をmultiple translocationが起こったか否かを指標として評価することで、抵抗性遺伝子のdurabilityを予測するシステムを確立したいと考えている。



【対象】当センター職員、県試験研究機関、農業大学校、独立行政法人試験研究機関、大学などの関係研究機関を想定した内容となっています。

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